古人は寝室を「主」と呼んだ
清代の家相書『陽宅三要』は、家の吉凶を決める要素を、思い切って三つに絞り込みました。その二番目に据えられたのが、寝室です。
門と炉のあいだに置かれた「主」とは、主人の居場所、すなわち寝室のことです。家じゅうの部屋のなかから、応接間でも書斎でもなく寝室が選ばれた。その理由は単純で、人がもっとも長く、もっとも無防備に身を置く場所だからです。寝室の気が整えば、眠りが深くなり、体が回復し、日中の判断が冴える。逆にここが乱れていると、原因のわからない不調や苛立ちが、じわじわと暮らしに滲んでいきます。
頭の後ろに、壁という山を
ベッドの置き方で、まず押さえたいのは一点だけです。頭側をしっかりした壁につけること。風水でいう靠山(かおざん)、すなわち後ろ盾です。頭の後ろに揺るがぬ支えがあると、人は安心して深く眠れます。逆に、頭側が窓だったり、壁から離して斜めに置かれていたりすると、背後が空いた状態になり、眠りが浅くなりやすい。社長室のコラムで、社長の椅子は壁を背にと申し上げたのと、まったく同じ理屈です。昼は椅子の背に、夜は枕の後ろに、山を置いてください。
そのうえで余裕があれば、ベッドの両脇にも目を配ります。左右のどちらかだけが壁に密着し、片側だけが開けている配置よりも、両側にほどよく空間があるほうが、気の巡りも夫婦の関係も穏やかに保たれるとされます。
避けたい三つの形
寝室の禁忌は数多く語られますが、実際の鑑定で私がまず確かめるのは三つです。
第一に門冲床。ドアを開けた気の通り道の直線上に、ベッドが横たわっている形です。出入りの気が寝ている体を直撃し続けるため、眠りの質をもっとも損ないやすい配置で、見つけたら最優先で外します。第二に梁圧床。太い梁や下がり天井が、ちょうど頭や胸の真上を横切る形です。目には見えない圧が毎晩かかり続けると考え、ベッドの位置をずらすか、天井側に手当てをします。第三に、鏡がベッドを映す配置。夜中にふと目覚めたとき、鏡のなかの人影に驚いた経験はないでしょうか。鏡は気を跳ね返す道具ゆえ、眠る体に向けない。扉つきのワードローブの鏡なら、閉めておくだけで解決します。
このほか、寝室に水槽や大きな緑を持ち込みすぎないことも大切です。理由は水槽のコラムと観葉植物のコラムに書きましたが、要するに寝室は陰の静かな空間であり、動の気を招く道具はここでは過剰になるのです。
枕の向きは、人によって違う
「北枕は良くないのですか」というご質問もよくいただきます。日本では釈迦の涅槃にちなんで北枕を避ける習わしがありますが、風水の理屈でいえば、枕の向きに万人共通の正解はありません。八宅派では、住む人の生年から命卦を割り出し、その人の吉方へ頭を向けて眠るのを良しとします。東四命の方と西四命の方では、向けるべき方角がまるで違う。夫婦で命卦が分かれることも当然あって、その場合はどちらの眠りを優先するか、部屋の形と合わせて落としどころを探ります。
さらに厳密には、建物の坐向と築年から起こした飛星盤で、寝室の宮にどの星が巡っているかまで確かめます。同じ間取りでも、玄空飛星のコラムでお話ししたとおり、家が変われば星の配置は変わる。寝室に病符の星が伏せている家では、ベッドの位置ひとつにも、ほかの家とは違う配慮が要るのです。
むすびに
寝室の風水は、派手さのない領域です。財位のように夢のある話も、玄関のように人目を引く話もありません。けれども鑑定を重ねるほど、暮らしの土台は結局ここだと思い知らされます。眠りが変わると、朝の顔つきが変わり、日中の決断が変わり、やがて運の流れが変わっていく。処方のなかでいちばん地味なベッドの移動が、いちばん早く効いた、というご報告は少なくありません。
今夜、ご自身の寝室を見回してみてください。頭の後ろに壁はあるか。ドアの直線上に寝ていないか。梁は、鏡はどうか。それだけでも立派な風水の点検です。そのうえで、わが家の盤まで踏み込んで整えたいと思われたら、どうぞ一度ご相談ください。