同じ時代の、向きちがいの二軒

たとえば同じ年に、隣り合って竣工した二棟のマンションを思い浮かべてください。建った時代は同じ、いまの運も同じ第九運です。それでも、一方が南を向き、もう一方が東を向いていれば、二棟の運勢はまるで違う絵柄を描きます。玄空飛星では、建物の向き、すなわち坐向が一度変われば、家じゅうに配られる星の並びが総入れ替えになるからです。

逆もまた起こります。まったく同じ南向きの建物でも、第八運(二〇〇四〜二〇二三年)に建ったか、第九運(二〇二四〜二〇四三年)に建ったかで、宿る盤は別物になります。向きと築年。この二つの組み合わせの数だけ、世のなかには異なる気の地図が存在するわけです。「九運だから南が吉」という一律の物言いが、本来の玄空飛星にはなじまない。その理由が、ここにあります。

一つの間取りに、三つの星が降りている

玄空飛星では、家の平面を九つの区画に分け、その一つひとつに三種類の星を割り当てます。土台となるのが運盤です。いま第九運であれば中央に九を据え、洛書の順にしたがって一から九までを各区画へ飛ばしていく。これがその時代の地の気を写した、いわば下敷きになります。

その下敷きの上に、さらに二枚の盤が重なります。建物の背、坐の側から起こすのが山星。建物の正面、向の側から起こすのが向星です。山星は人の健康や家族の縁、すなわち人丁を司り、向星は財運を司る。古来「山は人丁を管し、水は財を管す」と言い習わすとおりで、同じ一室にいても、人の星と財の星はまったく別の顔つきをしているのです。坐向が決まればこの二枚の起こし方が決まり、九つの区画それぞれに、運・山・向の三つの数字が降りてきます。家の気の地図とは、この三層を一望に収めた一枚の盤にほかなりません。

山の神は山へ、水の神は水へ

では盤の良し悪しは、どこで分かれるのか。鍵は、いまを司る当令の星が、座るべき場所に座っているかどうかにあります。唐代、風水の祖と仰がれる楊筠松の高弟であった曾文辿が、『青囊序』にその要諦を言い切っています。

山上龍神不下水、水裏龍神不上山。 山の上の龍神は水へ下らず、水のなかの龍神は山へ上らない。人を司る山星は背後の山すなわち高く実した側に、財を司る向星は正面の水すなわち低く開けた側に。それぞれが本来の居場所に納まってこそ、家は栄える。 曾文辿『青囊序』

当令の山星が背後のどっしりした側に、当令の向星が正面の開けた側に納まった配置を旺山旺向と呼び、人にも財にも恵まれる理想とします。ところが向きが少し違うだけで、人の星が正面の低地へ流れ、財の星が背後の高みへ追いやられることがある。これが上山下水で、人丁も財も損ないやすい、避けたい盤です。同じ第九運に、隣り合って建った二軒が、一方は旺山旺向、もう一方は上山下水ということが、現実に起こります。時代の運がいくら良くても、この一点を外していれば話が始まりません。

だからこそ、坐向と築年を測ることから始める

鑑定の場では、「寝室はこの部屋でよいでしょうか」「社長の席はこちらに移すべきでしょうか」と、間取り図を前に尋ねられることがよくあります。お気持ちはわかるのですが、図面に部屋名が書かれているだけでは、私には何とも申し上げられません。その部屋にどの星が降りているかが、まだ見えていないからです。

ですから私はまず、羅盤を手に建物の坐向を正確に測り、いつ建てられ、いつ人が入ったのかを確かめます。そのうえで飛星盤を一枚起こし、どの区画に旺気が巡り、どの区画に病の星や争いの星が伏せているかを読む。玄空でいちばん時間をかけ、いちばん気を抜けないのが、この最初の一手です。盤さえ正しく立てば、「寝室はむしろ隣室へ」「社長席は半間ずらして向きをこちらへ」といった答えが、おのずと形をとってきます。

時の物差しと、一軒の地図

三元九運は、二十年ごとに移ろう時代の大きな流れを示す物差しです。これに対して玄空飛星は、その時代のなかで「この一軒に、どんな影響が及ぶのか」を具体に落とし込む技法だと言えます。九運という暦は日本じゅうの家に等しく流れていますが、その同じ時の流れを、家ごとにまるで違う恵みや課題へと翻訳してみせるのが、飛星の仕事なのです。

言い換えれば、三元九運が国土全体を見渡す一枚の地勢図だとすれば、玄空飛星は一軒の敷地に降り立って引く、手元の羅針盤にあたります。二つは別々の理論ではなく、重ね合わせて初めて、本場の風水の奥行きが立ち上がってくる。時の物差しと一軒の地図は、本来そろえて読むものなのです。

むすびに

三元九運という言葉が広く知られるようになったのは、本場の風水へ関心を寄せる方が増えた証で、私にはうれしいことです。ただ、その暦の知識だけで我が家の吉凶まで決めてしまうのは、玄空飛星の本意からは少しばかり離れてしまいます。家にはそれぞれ固有の生い立ちがあり、固有の気の流れがあるからです。

風水は「どの方角が良いか」という一問一答を探す術ではありません。その家だけが持つ気の地図を丁寧に読み解き、暮らしや商いをのびやかにしていくための、いわば住まいとの対話の技です。三元九運という時代の変わり目を、より深く味わっていただくためにも、玄空飛星という一枚の盤に、ぜひ一度目を向けてみてください。