会社の「主」は、社長の座る一室
住まいの風水でもっとも重んじられる場所を、古人は「主」と呼びました。 清代の『陽宅三要』が門・主・炉の三つで家の吉凶を断じたように (このあたりは別のコラムに書きました)、 気が集まり、人が長く身を置く一室が、建物全体の性格を決めていきます。 では、会社にとっての「主」はどこか。私は、社長室だと考えています。 日々の重い決断がそこで下され、その決断が組織の隅々へ流れ出していく源だからです。 現存する最古の住宅風水書は、冒頭でこう言い切っています。
宅は人の本。人が部屋をつくり、部屋がまた人をつくる、という往復の関係です。 社長室の設えは、体裁や格式の問題ではなく、経営判断という会社の根を養う土壌の問題なのです。
すべては「命卦」を知ることから
八宅派の風水では、人を生年(と性別)によって、 東四命と西四命という二つのグループに分けます。 これがその人の命卦であり、どの方位がその人を生かし、どの方位が損なうのかを決める土台になります。 東四命の方であれば東・東南・南・北が、西四命の方であれば西・西北・西南・東北が、おおむね味方の方位となります。
ここで大切なのは、ある社長にとっての吉方位が、別の社長には凶方位になりうる、という一点です。 だからこそ、隣の会社の社長室をそっくり真似ても意味がありません。 社長室の方位取りは、まずこの命卦を正確に割り出すところから始まる。 遠回りに見えて、これが最短の道です。
どちらへ顔を向けて座るか
命卦が定まると、その人にとっての四吉方と四凶方が決まります。 社長は、座って顔を向ける方位を、この四つの吉方のいずれかへ合わせるのが理想です。 四吉方にはそれぞれ性格があり、いまの経営フェーズに応じて選び分けるのが、私のおすすめする使い方です。
- 生気。活力と発展を呼ぶ方位。新規事業や拡大に挑む局面に。
- 天医。健康と安定を司る方位。心身を整え、堅実な判断を支えたいときに。
- 延年。人の縁と交渉に強い方位。対外的な信頼や人脈を築きたい時期に。
- 伏位。守りと集中の方位。足もとを固め、雌伏して力を蓄えたいときに。
攻めに転じたい年は生気へ、組織と縁を固めたい年は延年へ。 同じ椅子でも、向きひとつで受け取る気が変わると考えるのが、八宅の面白さです。
背に、確かな山を負う
社長の机は、しっかりした壁を背にして据えるのが鉄則です。 背後の壁は風水でいう靠山(かおざん)、すなわち後ろ盾であり、四神では「玄武」にあたります。 この四神の型をはじめて定式化したのは、「風水」という言葉の生みの親でもある古典『葬書』でした。
もとは墓地を選ぶための書ですが、後ろに山を負い、前が開け、左右が守る、というこの型は、 やがて住まいにも、都の造営にも、そして執務室の一席にも当てはめられていきました。 背中に揺るがぬ山を負っていると、助けてくれる人(貴人)の縁に恵まれ、判断もぶれにくくなる。 逆に背後が窓や通路、ガラス張りだと、いわば背中が空いた状態で、 どこか落ち着かず、支援も得にくいとされます。 やむを得ず背後が開けてしまう場合は、背の高い書棚やパーテーションを立て、人工の山を築けばよいのです。
入口を見渡せる席に座る
ドアに背を向けて座ると、誰が入ってきたのかが視界に入らず、人はそれと気づかぬうちに緊張を強いられます。 理想は、入口からもっとも遠い奥に席を構え、ドアを正面からやや斜めに見渡せる位置に座ること。 中国伝統風水でいう「掌握全局」、空間の全体を手のうちに収める座です。 ここに座ると、不思議と組織を統べる感覚が得やすくなります。 ただし、ドアの真正面に座る「門冲」は、入ってくる気を正面から浴びて落ち着かないので、 机の軸を少しだけずらして、直撃をかわすのが作法です。
左を高く、右を低く
席に着いた姿勢で、左手側を青龍、右手側を白虎といいます。 風水では古くから「左を高く、右を低く」、すなわち龍を強く、虎を静かに保つのを吉と見ます。 青龍側に背の高い書棚やパソコンを置いて気を立て、白虎側はすっきりと低く保つ。 それだけで事業運と人の和が高まり、無用な対立やもめ事が起きにくくなると考えます。 猛々しい白虎を鎮め、伸びやかな青龍を立てる。席のまわりの高低には、そんな含意があります。
財の気を、席のそばに引き込む
部屋に入って対角線上の角は明財位と呼ばれ、財運が静かに溜まる場所とされます。 社長席を、この財位の気を受けられる位置に据え、財位そのものは明るく整えておく。 観葉植物や、どっしりとした山の絵などで「気を留める」と良いとされます。 反対に、財位に窓やドア、通路があって気が抜けてしまう「財位空亡」は、できれば避けたい配置です。 溜まるべき場所から、財の気がこぼれ落ちてしまうからです。
なお、入口の対角に取るこの明財位は、あくまで簡便な見立てです。 本来の財位は、建物の坐向と建築時期から起こした飛星盤の上で、 いまの運を司る向星、第九運であれば九の星が、どの宮に飛んでいるかを確かめて定めます。 部屋ごとに違う答えが出る理由は、玄空飛星のコラムに書きましたので、 あわせてご覧いただくと、社長室の話も立体的に見えてくるはずです。
避けておきたい四つの形
最後に、社長席のまわりで気をつけたい「形煞」、すなわち凶を招きやすい形を、いくつか挙げておきます。
- 横梁圧頂。太い梁が社長の頭上を横切る形。重圧や頭痛、判断の鈍りを象るとされます。
- 尖角煞。柱や家具の鋭い角が、机に向かって突き刺さる形。
- 背後空虚。背中側がドアや通路、大窓で、靠山を欠いた形。
- 穿心煞。ドアと窓が一直線に通り、気が素通りして財が溜まらない形。
どうしてもこうした形を避けられないときも、悲観する必要はありません。 天井の装飾やパーテーション、観葉植物を用いて気を和らげる「化煞」という手当てがあります。 形を消せないなら、気の流れをやわらかく逸らせばよい。風水は、案外しなやかな技術なのです。
むすびに
社長室の良し悪しは、面積の大小ではなく、「誰が、どこで、どちらを向くか」に尽きます。 そしてその答えは、社長個人の命卦と部屋の坐向の組み合わせから導かれるため、本来は一社ごと、一人ごとに違うものです。 だからこそ、ありものの正解を当てはめるのではなく、あなた自身の一点を探す作業に意味があります。 宅は人の本なり、と千年以上前の古人は言いました。この一句がもっとも切実に響く部屋こそ、社長室だと私は思います。
正確な命卦の割り出しと、羅盤による方位の計測を行えば、 「あなたが座るべき一点」と「向くべき一方位」を、具体的にお示しすることができます。 日々の決断が下されるその席を、もう一段確かなものにしたいと感じておられる経営者の方は、どうぞ一度お声がけください。