なぜ、たった三つなのか
家を見る要素は、数えあげればきりがありません。方位、間取り、梁の走り、窓の向き、隣家との関係。 趙九峰はそれを承知の上で、あえて切り詰めました。本のはじめに、こう言い切っています。
門は玄関であり、家が外の世界と気をやり取りする出入口。 主は家の主が一日のうち最も長く身を置く部屋で、いまの住まいなら主寝室にあたります。 炉は火を扱う台所、すなわちキッチンです。
この三つが家の運命を握るのは、ひとえに、人が生きるうえで最も深く関わる場所だからでしょう。 毎日くぐり、そこで眠り、そこで食べる。出入りと睡眠と食事という、暮らしのいちばん土台になる営みが、 この三点に集まっています。古い宅経が「宅は人の本なり」と説いたのも、 結局は同じことを言っているのだと思います。土台が静かに整っていれば、家は自ずと良い流れを呼び込む。 派手な開運グッズより先に、まずここを観るべきだ、というのが古典の見識です。
吉凶は、五行の縁で決まる
では、門・主・炉の良し悪しはどう見分けるのか。趙九峰の答えは、拍子抜けするほど明快です。
手がかりは五行、木・火・土・金・水の巡りです。 木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、水はまた木を生む。これが相生、いわば相手を育てる縁です。 反対に、木は土を剋し、土は水を剋し、水は火を剋し、火は金を剋し、金は木を剋す。これが相剋、相手を損なう縁にあたります。
門・主・炉はそれぞれ方位を持ち、方位には五行が宿ります。だから三点の関係は、おのずと五行の縁として読めるのです。 趙九峰が理想としたのは、三者がぐるりと一巡して生かし合う姿でした。
門が主を生かし、主が炉を生かし、炉がふたたび門を生かす。三点が円を描いて互いを育てあう。 原書はこの状態を、家族が栄え、健康と長寿がそろう住まいの条件だと記しています。 机上の理屈に見えるかもしれませんが、現場で家を見ていると、 この巡りが断たれている家ほど、住む人がどこか落ち着かないのを何度も目にしてきました。
方位の背骨、東四宅と西四宅
五行の縁を読むには、その前提として、住まいが二つの系統に分かれることを知っておく必要があります。 八方位を性質で束ねた東四宅と西四宅です。 『陽宅三要』は、この二系統を混ぜることを強く戒めました。 西四宅の門・主・炉は西四宅で、東四宅のそれは東四宅で揃えよ、というのです。
| 系統 | 属する方位(卦) | 五行の巡り |
|---|---|---|
| 東四宅 | 坎(北・水)・離(南・火)・震(東・木)・巽(東南・木) | 水が木を生み、木が火を生む。水木相生、木火通明 |
| 西四宅 | 乾(西北・金)・兌(西・金)・坤(西南・土)・艮(東北・土) | 土が金を生む。土金相生 |
同じ系統で揃えれば、方位の五行は手をつなぐように生かし合います。 ところが東と西を混ぜると、たとえば震(木)の門に坤(土)の主で木が土を剋し、 離(火)の門に乾(金)の炉で火が金を剋す。せっかくの三点が、内輪で傷つけ合ってしまうのです。 「系統を混ぜない」。複雑に見える家相判断を貫く背骨は、煎じ詰めればこの一語に尽きます。
家ではなく、住む人に合わせる
ここからが、私が風水という学問にいちばん惹かれるところです。 古典は、住まいの系統を、ほかならぬ住む人自身に合わせよと求めます。 人にはそれぞれ生まれ年から導かれる本命卦、別名「福元」があり、 これもまた東西の二系統に分かれます。東四命の人は東四宅に、西四命の人は西四宅に住むと調う、というわけです。
門・主・炉が良い系統で揃い、なおかつ住まいの系統が住む人の本命卦と響き合う。 この二段が噛み合って、はじめて『陽宅三要』のいう吉宅が立ち上がります。 同じ間取りでも、住む人が変われば吉凶も変わる。風水が占いではなく、 あくまで「住む人ありきの環境学」であるゆえんが、ここにあります。
古典を、今日の住まいへ
理屈はこのくらいにして、暮らしに引き寄せてみましょう。難しい計算に入る前に、 まずは三点を、それぞれの役どころから素直に見つめ直すだけでも、ずいぶん違ってきます。
門は、喜びを迎える場所として
玄関は三要の筆頭、すべての気の入口です。明るく、広く、清らかに。 扉を開けた途端に壁や柱が迫る配置や、靴と荷物で塞がれた三和土は、 訪れるはずの良縁を入口で押し返してしまいます。古い言い回しに「開門見喜」、 門を開けて喜びを見る、というものがあります。入った瞬間にふっと心がほどける玄関こそが、何よりの吉相です。
主は、一日の三分の一を託す場所として
主寝室は、家の主の気を静かに養う部屋です。方位やベッドの向きは、本来、門との五行の縁を踏まえて整えるもの。 細かな理屈はさておいても、頭上を太い梁が横切る位置や、ドアや鏡が枕元をまっすぐ射る配置だけは、避けておきたいものです。 眠りの質は、翌日の判断の質に、思いのほか直結します。
炉は、健康と財を預かる火の座として
炉は「食の方」、すなわち健康と暮らしの実りを司ります。 コンロ(火)とシンクや冷蔵庫(水)が真向かいで睨み合う配置は、水と火が剋し合う形として嫌います。 火の力が騒がず、静かに働く場所に据えること。台所が乱れ、火回りがくすんでいると、 健康にも蓄えにも翳りが差すと古人は見ました。日々の手入れそのものが、最良の風水だとも言えます。
むすびに
数百年読み継がれてきたというだけで、その教えには相応の理由があるものです。 出入りする門、眠りを託す主、火を扱う炉。この三点を、五行が互いを育てるように整え、住む人の本命卦に寄り添わせる。 言葉にすればごく簡素ですが、住まいの吉凶を貫く背骨として、これ以上に確かなものを私は知りません。
もっとも、正確な見立てには方位の羅盤計測と、ご家族それぞれの本命卦の照合が欠かせません。 ご自宅の門・主・炉がどう巡っているのか、いまの住まいがご家族にとって調う系統なのか。 間取り図を一枚お持ちいただければ、古典の筋道に沿って、ていねいに読み解いてまいります。