盤のなかで、人の営みを受け持つ層

奇門遁甲の盤は、いくつもの層が重なってできています。天の巡りを写す九星、地に伏せる三奇六儀、目に見えぬ働きを受け持つ八神。そのなかで、人の出入りと営みを受け持つのが八門です。休・生・傷・杜・景・死・驚・開。名前を眺めるだけでも、どこか物語めいた顔ぶれではないでしょうか。

八門は八卦の宮から生まれ、時々刻々、盤の上を巡っていきます。ある時刻、ある方角に、どの門が立っているか。それが「その時、その方角へ動いてよいか」を教えてくれる。これが八門のもっとも基本的な使い方で、日本で「方位取り」と呼ばれてきたものの源流も、突き詰めればこの門の巡りにあります。

開・休・生、まず三つの門を覚える

八門の要点は、古来、一句に尽くされてきました。

八門若遇開休生、諸事逢之皆稱情。 八門のうち開・休・生に遇えば、よろずの事、これに逢いてみな心にかなう。 『煙波釣叟歌』

開・休・生の三つを三吉門と呼びます。ただ、ひとくくりに「吉」と言っても、三つの門の性格はそれぞれ違います。

開門は、その名のとおり「ひらく」門です。五行は金。役所の手続き、就職、開店、対外的な発表といった、公に事をひらく場面を得意とします。休門は「やすむ」門で、五行は水。休息と調和を司り、貴人に会う、目上に相談する、縁談をまとめるなど、穏やかに整えたい話に向きます。そして生門は「いきる」門。五行は土で、生気と生業を司ります。求財と遠行の第一とされ、商い、開業、長い旅なら、まずこの門です。

私が商談の日取りのご相談を受けるときも、話の性質で門を選び分けます。攻めの契約なら生門、目上を立てて運びたい話なら休門、公的な手続きが絡むなら開門、という具合です。同じ「良い日」でも、事に合う門とそうでない門がある。ここが択日の面白いところです。

凶門にも、ふさわしい使い道がある

では残りの五つは、ただ避けるべき門なのか。歌は続けて、こう歌います。

傷宜捕獵終須獲、杜好邀遮及隱形。景上投書並破陣、驚能擒訟有聲名。若問死門何所主、只宜弔死與行刑。 傷門は狩猟によろしく、終には獲物を得る。杜門は行く手を遮ること、身を隠すことによい。景門は書を献じ陣を破るに、驚門は訟えを制して名を揚げるによい。死門の司るところを問うならば、ただ弔いと刑の執行にかなうのみ。 『煙波釣叟歌』

面白いのは、古人が凶門に「使えない」という札を貼らなかったことです。傷門は損傷を象る門ですが、獲物を追い詰める狩猟や、貸したものを取り立てる交渉には、むしろ力を発揮します。杜門は閉塞の門ですが、人に知られず事を運びたいとき、じっと身を潜めて研鑽を積みたいときには、これほど頼もしい門もありません。景門は火の門で、文書と華やぎを司り、企画書の提出や試験、宴席に。驚門は言葉の立つ門で、訴訟や弁論に。死門でさえ、弔事にはかなうのです。

吉凶の二択で切り捨てず、事の性質と門の性質を突き合わせる。八門の運用は、適材適所という、いたって実際的な発想で貫かれています。

天の三門、地の四戸、古人の非常口

『煙波釣叟歌』には、出行のための一節がもうひとつあります。吉門がうまく得られないとき、古人がどうしたかという話です。

天三門兮地四戶、問君此法如何處。太衝小吉與從魁、此是天門私出路。地戶除危定與開、舉事皆從此中去。 天に三門あり、地に四戸あり。君に問う、この法はいかに処するかと。太衝・小吉・從魁、これぞ天門のひそかな出路。地の戸は除・危・定・開、事を挙げるにはみなこの中より出でよ。 『煙波釣叟歌』

天三門の太衝・小吉・從魁は六壬とも共通する十二の神の名で、月將を時に加えて求める三つの方角。地四戸は暦の建除十二神のうち、除・危・定・開の四つの日柄です。八門とはまた別の物差しですが、古人はこうして経路をいくつも用意しておき、盤の上で吉門が得られない日の、いわば非常口としました。歌はこのあと「さらに奇門の相照らすを得れば、出行百事みな欣欣たり」と続けます。門と奇が重なる時と方角を選べたなら、それが上々の首途だ、というわけです。

門ひとつでは決めない、という作法

ここまで八門をご紹介しておいて言うのも妙ですが、実際の鑑定では、門ひとつで白黒を決めることはありません。同じ生門でも、そこに乗る星と神、地に伏せる干との組み合わせで、力の入り方がまるで変わるからです。三奇と吉門が重なって光を放つ形もあれば、せっかくの吉門が力を失っている形もある。八門は読みの入口であって、結論ではないのです。盤全体をどう見るかは、占術紹介の奇門遁甲のページに書きましたので、そちらをご覧ください。

それでも、八門から学び始める意義は大きいと私は思っています。時と方角にはそれぞれ性質があり、事の性質と合わせて択ぶ。奇門遁甲という術の骨法が、八つの門に、もっとも素直なかたちで表れているからです。

むすびに

動くこと自体に吉凶があるのではなく、いつ、どちらへ、何のために動くか、その組み合わせに吉凶が宿る。八門の教えを一言にまとめれば、そうなるでしょう。千年以上のあいだ、旅立つ人も、店をひらく人も、戦に出る人も、この八つの門をくぐってきました。

現代の私たちの「出行」は、引越しであり、開業であり、勝負どころの商談です。動く日と方角をあらかじめ確かめておきたい方は、どうぞ一度ご相談ください。盤を立てて、あなたの用向きにかなう門を、ご一緒に探します。