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Qi Men Dun Jia
奇門遁甲は、太乙・六壬とならぶ三式の一つであり、古来その筆頭に置かれてきた術です。 戦の趨勢を読み、軍を動かすべき日と方角を定めるために用いられたことから、「帝王の術」とも称されてきました。
その源は、伝承によれば黄帝にさかのぼります。涿鹿の野で蚩尤と戦った黄帝が天より理を授かり、 臣下の風后がこれを文に演じたのが、奇門のはじまりと伝えられます。 のちに周の姜太公が七十二局へ、漢の張良が陰遁九局・陽遁九局の十八局へと整え、 後漢末には諸葛亮が八陣図にこの理を用いたといわれます。 数千年のあいだ、国家の命運を背負う者の手から手へと受け継がれてきた術なのです。
奇門遁甲の盤は、天・地・人・神という四つの層が重なってできています。 その時その場所の天地のはたらきを一枚の盤に写し取り、最も力のある時と方角を読み解く。 理論の精緻さと、現場での確かな実用を兼ね備えた、たいへん奥行きのある術です。
奇門遁甲を組み立てるときは、九宮、すなわち八方位と中央からなる方位盤の上に、性質の異なる四つの層を重ねていきます。 天の時、地の利、人の和、そして神の助け。この四つがそろって、はじめて一局の盤が立ち上がります。 盤を立てる方式には転盤と飛盤があり、局を定める拆補法・置閏法をめぐっては流派が分かれますが、 いずれも九宮に天地の気を写し取るという根は一つです。
天蓬・天芮・天衝・天輔・天禽・天心・天柱・天任・天英の九つの星。天のめぐりがもたらす、時そのものの吉凶を示します。
休・生・傷・杜・景・死・驚・開の八つの門。なかでも開・休・生の三吉門を、行動の出口として重んじます。
乙・丙・丁の三奇と、戊・己・庚・辛・壬・癸の六儀。地に伏した十干の配置が、利となる方角を語ります。
値符・螣蛇・太陰・六合・白虎・玄武・九地・九天。盤に働く、目に見えない助けと障りを映し出します。
一年の気のめぐりは、冬至から夏至へ向かう上り坂と、夏至から冬至へ向かう下り坂に分かれます。 前者では星を順に進める陽遁を、後者では逆に配る陰遁を用い、それぞれ九つずつ、あわせて陽遁九局・陰遁九局を立てます。 同じ時刻でも、季節がどちらの坂にあるかで、盤の相は大きく変わるのです。
奇門遁甲には、年・月・日・時のどれを単位に盤を立てるかで、年家・月家・日家・時家の別があります。 実際の鑑定でもっとも頼りになるのは、一刻ごとの気を捉える時家奇門です。 「いつ動くか」を細かな時間の単位で問えるからこそ、奇門は擇日と方位取りという実務の場で、確かな力を発揮します。
奇門遁甲を方位の術だとお考えの方は少なくありません。けれど本来その射程ははるかに広く、 本場中国では占いの一大体系として、いくつもの領域にまたがって用いられてきました。私もまた、その四つすべてに奇門を用います。
ひとつは卜占です。立てた一局から、目の前の問いの成否や、物事の行方を読み取ります。 古来「奇門遁甲を会得すれば、訪ね来る人になぜ来たのかを問わずともわかる」と言い習わされてきたほど、その占断は精緻です。
ひとつは命理です。生まれたその時の盤を命盤として読み解き、その人が天から授かった資質と、運の流れを見定めます。
ひとつは風水です。住まいや墓所の坐向、地の相に奇門の盤を重ね合わせ、吉凶と、気を取り込むべき方角を定めます。
そしてもうひとつが、術奇門です。符呪や造作といった、道家の法としての運用がこれにあたります。 占い、命、地、法。源はひとつの陰陽の理でありながら、用に応じて四つの顔を持つ。これが、奇門という術の懐の深さです。
四柱推命と同じことが、奇門遁甲にもいえます。日本でひろく流布しているものと、私が本場中国に学んだものとでは、 同じ名を持ちながら、ほとんど別の術といってよいほど、中身が異なります。
日本に伝わった奇門遁甲の多くは、方位の吉凶を判じる「方位術」として受け止められてきました。 年盤・月盤・日盤から吉方位を選び、その方角へ動いて運を取る。九星気学とも響き合いながら、 おもに開運の暦として親しまれてきたのです。入りやすく実用的である一方で、その射程は方位の一点に絞られています。
これに対して本場中国の奇門遁甲は、さきに述べたとおり、卜占・命理・風水・術奇門にわたる総合的な体系です。 一刻ごとの時家盤を立てて事の成否を占い、命を読み、地を相し、法を行う。方位はそのうちの一面にすぎません。 同じ盤を前にしても、何を問い、どこまで読み解くかが、根本から違うのです。
ただし、日本に伝わったものがすべて簡略だというわけではありません。戦後、台湾の張耀文より伝えられた透派のように、 本格的な体系を今に保つ系統もあります。私は流儀の出自や正統を論じることよりも、実際に用いてその効が現れるかどうかを重んじます。 透派の法もまた、現場で確かな手応えを幾度も確かめてまいりました。 だからこそ、本場中国の理と透派の手法、その双方を、ご相談の目的に応じて使い分けています。
天の時を知り、地の利を得て、人の和を成す。
正直に申し上げますと、数ある占術のなかで私自身がもっとも多用し、その効果の恩恵を誰よりも受けてきたのが、この奇門遁甲です。 自分の人生の節目で幾度となく方角と日取りを選び、たしかに流れが変わるのをこの身で確かめてきました。 だからこそ、自信を持ってお勧めできる術でもあります。
奇門遁甲は、机上で眺めるためではなく、実際に「使う」ことで真価を発揮する術です。 ある時は一局を立てて事の成否を占い、ある時は最も力のある日と方角を選んで、その日その方角へ身を運ぶ。 重要な方角へあえて出向き、吉気を取り込む「方位取り」、いわゆる造作も、奇門のもっとも積極的な使い方です。 占断から命理、風水、そして法術まで、その時の課題に応じて術の引き出しを使い分け、行動に落とし込めるところまで踏み込みます。
さらに、風水鑑定や四柱推命の結果と重ね合わせることで、その方にとっての「いつ、どこで、どう動くか」を、 ひとつの戦略としてご提案します。守るためではなく、攻めるための時間術。それが私の用いる奇門遁甲です。